動かして電圧を測る
コイルを磁場中で速度 v で動かし、誘導起電圧 U を測ります。ここから G を校正します。
ⅠとⅡは別々の話ではありません。「重さを電気で支える」→「電気を量子の基準で測る」→「質量を自然定数と結び付ける」という、実在する精密測定装置への一本道です。
Ⅰでは、磁場中のコイルを使います。電流を流せば力が生まれ、コイルを動かせば電圧が生まれます。両方に出る同じ係数 G = 2πrNB0 を消すことで、磁場やコイルの長さを個別に精密測定せずに済みます。
Ⅱでは、右辺の電気量を信頼できる基準で測るために、量子ホール効果を使って抵抗 R を決めます。問題の装置は学習用に単純化されていますが、発想の中心は実在のキブル天秤と共通です。
読み方:このノートでは見通しのため G = 2πrNB0 と置きます。実在のキブル天秤でいう BL に対応する量です。
| Ⅰ(1) | V1 = 2πrNB0v0 |
|---|---|
| Ⅰ(2) | k = 4πf / c |
| Ⅰ(3) | (M+m)g − T − (2πrNB0/R){AVLsin(kz) + 2πrNB0v} |
| Ⅰ(4) | z1 = mgR/(2πkArNB0VL) V2 = mgR/(2πrNB0) |
| Ⅰ(5) | m = V1V2/(Rgv0) |
| Ⅱ(1) | V = RHI1 − RI2 H = |n1I1 − n2I2 − n3I3| |
|---|---|
| Ⅱ(2) | ア = (n1I1 − n3I3)/(n2I1) イ = R′I3/(RI1) RH/R = ア + (1/A)イ、A が大きいとき R ≒ RH(ア)−1 |
| Ⅱ(3) | R の測定値 = 108 Ω(有効数字3桁) 相対誤差 = 2 %(有効数字1桁) |
コイルを磁場中で速度 v で動かし、誘導起電圧 U を測ります。ここから G を校正します。
物体を載せ、電流 I がつくる上向きの磁気力で重さ mg を支えます。必要な電流から重さを求めます。
ここは磁束の変化ではなく、動く導線中の正電荷に働くローレンツ力 q(v × B) を見ます。円盤は下向き、上から見ると紙面の奥向きに動きます。磁場は半径方向の外向きです。
ここで得たこと:V1/v0 = G。つまり、後で困る 2πrNB0 を電圧と速度から測れます。
鏡 M1 が z だけ動くと、鏡へ向かう光と戻る光の両方で距離が変わるため、光路差は 2z だけ変わります。光の波長は λ = c/f です。
注意:鏡は往復する光路の片側にあるので、光路差は z ではなく 2z です。
下向きを正にすると、重力は正、糸の張力と上向きの磁気力は負です。
z が小さいとき sin(kz) ≒ kz。下へずれるほど上向きの力が強くなります。
下向きに速く動くほど、上向きの磁気力が強くなります。振幅が小さくなる理由です。
静止したとき v = 0 です。反対側の質量 M のおもりも止まっているので T = Mg。円盤自身の重さ Mg は張力と相殺され、残るのは物体 m の重さです。
見方:V2 には A、VL、k が残りません。どんな制御方法でも、止まった物体を支えるのに必要な磁気力は mg だからです。
Ⅰ(1)から G = V1/v0、Ⅰ(4)から m = GV2/(Rg) です。G を消すと、
Ⅰの最後の式には抵抗 R が残ります。R が少しでも不正確なら、求めた質量もずれます。Ⅱは、量子ホール効果による抵抗 RH を基準にして、未知の抵抗 R を精密に比べる回路です。
この設問での約束:ホール素子に I1 を流すと、P3を基準としたP4の電位は RHI1 です。RH は精密に決まる抵抗値として扱います。
P5 は抵抗 R の上端で、そこから下端までの電圧は RI2 です。一方、P4の電位は RHI1。したがって、P5を基準とするP4の電位 V は、P4の電位からP5の電位を引きます。
ソレノイド2・3は同じ向き、ソレノイド1は逆向きに巻かれています。中心の磁場は、向きを込めて足し合わせます。
磁気センサーが H = 0 を示すように I1 を調整します。ゼロの条件は、絶対値の中身が0であることです。
可変電源の出力は V′A = AV、抵抗 R′を流れる電流が I3 なので、V = R′I3/A です。これを上の V の式に代入します。
(n1I1 − n3I3)/(n2I1)
R′I3/(RI1)
零位法の良さ:電圧の値を高精度で直接読む代わりに、「磁場が0になった」という条件を使います。精密測定では、量を直接読むよりゼロに合わせる方法がよく使われます。
答:R の測定値は 108 Ω、相対誤差は 2 %です。
実在のキブル天秤は、物体の重さを磁気力で打ち消し、別の測定でコイルと磁場の係数を決めます。磁場 B やコイルの長さ L を直接、非常に正確に測らないことが核心です。
| この問題 | 実在のキブル天秤での役割 | 何をしているか |
|---|---|---|
| Ⅰ(1) | コイルを一定速度で動かす速度モード | G = 2πrNB0 を電圧から校正する |
| Ⅰ(3)(4) | 電流で上向きの磁気力をつくる力モード | 重さ mg を磁気力 GI で支える |
| Ⅰ(5) | 2つのモードを掛け合わせる | 直接測りにくい G を消す |
| Ⅱ | 量子ホール効果による抵抗の標準化 | 抵抗 R の不確かさを小さくする |
実機との違い:この問題は、位置を安定化する可変電源、レーザー干渉計、量子ホール抵抗を一つの学習モデルにまとめています。実機では真空、振動・温度の制御、重力加速度の精密測定など、さらに多くの補正が必要です。また現代のキブル天秤では、電圧の量子標準としてジョセフソン効果も重要です。
英国の国立物理研究所(NPL)の物理学者 Bryan Kibble が、当時「ワットバランス」と呼ばれた装置を提案しました。もともとは電流の単位アンペアをよりよく実現する目的でした。
量子ホール効果により、抵抗を基本定数と結び付けて非常に高い精度で扱える道が開かれました。問題Ⅱはこの考えを取り入れています。
発明者をたたえ、「ワットバランス」はキブル天秤と呼ばれるようになりました。Kibble は2016年に亡くなっています。
SIではプランク定数 h の数値を固定し、kgは人工物ではなく自然定数を基礎として定義されるようになりました。キブル天秤は、その定義を現実の質量測定として実現する代表的な装置の一つです。
ここでのすごさ:1 kg の分銅を完全に変化しない物体として保管するのではなく、世界のどこでも再現できる自然法則・量子現象・光・電気を使って質量を測れるようにした点です。